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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)37号 判決 1985年12月19日

参加人

サンーゴバン・アンバラージュ

右代表者

クロード・ピコ

右訴訟代理人弁護士

三宅能生

山崎順一

弁理士

川口義雄

原告(脱退)

コムパニイ・ド・サン・ゴバン

右代表者

ブイノー・マルタン・ラプラド

被告

特許庁長官宇賀道郎

右指定代理人

山本格介外二名

主文

特許庁が、昭和五七年五月二八日、同庁昭和五五年審判第一八五四六号事件についてした審決を取り消す。訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

参加人訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は、「参加人の請求を棄却する。訴訟費用は、参加人の負担とする。」との判決を求めた。

第二  請求の原因

参加人訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一  特許庁における手続の経緯

脱退原告は、一九六八年一〇月九日にフランス国でした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和四四年一〇月九日、発明の名称を「特にガラス製品の欠陥を光学的に探知する方法および装置」とする発明について特許出願(昭和四四年特許願第八〇四〇八号)をしたが、昭和四九年二月二〇日、拒絶査定を受けたので、同年七月二日、これに対する不服の審判(昭和四九年審判第五〇四一号)を請求し、次いで、昭和五二年四月一五日、右特許出願の一部を新たな特許出願(昭和五二年特許願第四二七五七号)とし、更に、同年六月一〇日、右特許出願を考案の名称を「ガラス製品の欠陥を光学的に探知する装置」とする実用新案登録出願(昭和五二年実用新案登録願第七四九八三号。以下、その考案を「本願考案」という。)に変更したけれども、昭和五五年五月二七日、拒絶査定を受けたので、同年一〇月一四日、これに対する不服の審判(昭和五五年審判第一八五四六号)を請求したところ、昭和五六年六月一一日、出願公告(昭和五六年実用新案出願公告第二四九一四号)がされたが、登録異議の申立てがあり、特許庁は、昭和五七年五月二八日、登録異議の決定をするとともに、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同年七月三日脱退原告に送達された(出訴期間として三か月附加)。そして、参加人は、昭和五八年七月八日、脱退原告から本願考案に係る実用新案登録を受ける権利を承継し、同年九月一二日、その旨特許庁長官に届出をした。

二  本願考案の要旨

光源と、光学装置と、変調器とを一つのケース内に収容して設け、発光器がケースの外のしなやかなガラス・ファイバー束に接続され、同一平面に上記光源の多数の像を形成する複数の光学装置が設けられ、上記変調器がそれぞれの像の位置の前において動くことができるように同軸に配置した孔または半径方向スリットの多数の円形線を備えた円板から成り、上記孔またはスリットの数が光を異なる周波数でさい断するため各円形線毎に異なり、また狭い通過帯域を変調周波数の一つに同調させた増幅器を各々備えた複数の可動受光器が設けられていることを特徴とするガラス製品の欠陥を光学的に探知する装置。(別紙図面(一)参照)

三  本件審決理由の要点

本願考案の要旨は、前項記載のとおりと認められるところ、登録異議申立人が引用した特公昭三四―一〇七三八号特許公報(以下「第一引用例」という。)には、光源と、光学装置と、変調器と、発光器とを設け、前記変調器は、同軸に配置した孔の円形線を備えた円板からなり、変調周波数の一つに同調させた増幅器を各々備えた複数の受光器が設けられている検瓶装置が記載され(別紙図面(二)参照)、同じく引用した特公昭二八―二三三八号特許公報(以下「第二引用例」という。)には、変調器が同軸に配置した孔の二つの円形線を備えた円板からなり、前記の孔の数が各円形線ごとに異なる閃光融合頻度測定装置が記載されているもの(別紙図面(三)参照)と認められる。

そこで、本願考案と第一引用例記載の事項とを比較すると、両者は、光源と、光学装置と、変調器と、発光器とを設け、前記変調器は、同軸に配置した孔の円形線を備えた円板からなり、更に、変調周波数の一つに同調させた増幅器を各々備えた複数の受光器が設けられているガラス製品の欠陥を光学的に探知する装置の構成の点で一致し、(1)光源、光学装置、変調器等が、前者は、一つのケース内に収容されているのに対し、後者には、ケースに関して記載されていない以上、収容されているか否か対比するすべもない点、(2)前者は、発光器がしなやかなガラス・ファイバー束に接続されているのに対し、後者は、ガラス・ファイバー束を欠如する点、(3)変調器が、前者は、同軸に配置した孔の多数の円形線を備え、かつ、孔の数が各円形線ごとに異なる円板からなるのに対し、後者は、同軸に配置した孔の円形線を備えた円板からなる点、(4)各受光器の増幅器が、前者は、変調周波数の一つに同調させた狭い通過帯域を有するのに対し、後者には、変調周波数の通過帯域の委細に関して記載されていない点で相違するものと認められる。

前記相違点を審究すると、相違点(1)については、前者は、周囲の照明の影響の回避及び取扱いの便宜のために、単に後者に光学機器の分野で広範に用いられている光学系の諸部材を一つのケース内に収容する慣用技術を採用したものにすぎないというべきである。相違点(2)については、発光器をしなやかなガラス・ファイバー束に接続することが、光学機器の分野で広範に用いられている慣用技術である以上、前者は、光路の方向性を自在とするために、単に後者に前記慣用技術を採用したものにすぎないというべきである。相違点(3)については、前者は、互いに相異なる周波数に変調された光束を得るために、後者の円板を単に第二引用例記載の円板を採用して改造したものにすぎないというべきである。相違点(4)については、前者は、所望の変調周波数以外の光束に妨害されないようにするために、単に後者の増幅器を常用されている所望の変調周波数のみの通過帯域を有する増幅器に限定したものにすぎないというべきである。そして、前記(1)ないし(4)の相違点における前者の構成を総合しても、特段の効果は認められず、格別創意工夫を要するものと認めることができない。

したがつて、本願考案は、第一引用例及び第二引用例に記載された事項並びに前記諸慣用技術に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認められるので、実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができない。

四  本件審決を取り消すべき事由

本願考案と第一引用例記載の発明との間に本件審決の認定するとおりの相違点があること、並びに本件審決の相違点(1)及び(2)に関する判断にいう慣用技術が存することは認めるが、本件審決は、第一引用例及び第二引用例記載の技術内容の認定を誤り、ひいて、両者の対比において、両者の右以外の構成上の差異及び効果上の差異を看過した結果、本願考案をもつて第一引用例及び第二引用例記載の技術並びに前記慣用技術に基づいて当業者が極めて容易に考案をすることができたものとの誤つた結論を導いたものであるから、違法として取り消されるべきである。すなわち、

本願考案の特徴は、同一検査装置において、互いに異なる周波数を有する変調光を同時に発する複数の発光器と各周波数の一つ一つに同調させた増幅器をそれぞれ備えた複数の可動受光器との組合せにあり、右の構成を採用したことにより、被検査物の多重検査(異なる個所の同時検査)を簡易かつ正確にすることができるという顕著な作用効果を奏するものであるところ、右の構成は、第一引用例及び第二引用例に開示ないし示唆されておらず、また、右の作用効果は、第一引用例及び第二引用例の記載からは予測することができない。すなわち、第一引用例記載の発明は、多重的検査のための構成を有するとしても、同一周波数の光を用いるものであつて、本願考案のような、異なる周波数の変調光を同時に使用するという技術的思想のものではなく、本願考案の前記顕著な作用効果を予測せしめるものでもない。また、第二引用例記載の発明は、互いに異なる周波数を有する複数の変調光を同時に取り出す構成のものではなく、単に被検者(人)の疲労度を測定するものであるから、これを第一引用例記載の発明に適用し得べくもなく、これを第一引用例記載の発明と組み合わせても、本願考案の特徴である前記構成を推考し得るものでもない。

第二引用例記載の発明について詳述すると、その要点は、被告の主張するとおりであるが、第二引用例記載の発明は、被害者にちらつきを感じさせるため、回転円板1における光源用豆電球6からの光に対向する窓11にしても、周期が連続的に低下する断続光を得ることを目的とするものであつて、「回転円板速度の減衰」(第二引用例第一頁右欄第二一、第二二行)を絶対的に必要とするものであり、したがつて、本願考案におけるような、光源から複数の異なる変調周波数を有する断続変調光を取り出すという技術的思想を何ら含んでいない。被告は、第二引用例には、互いに異なる周波数を有する複数の光を取り出す構成が記載されている旨主張するが、第二引用例記載の発明の目的に照らせば、第二引用例記載の発明に右の構成がないことは明らかである。第二引用例の第2図で見る限り、窓11の数と孔12の数とは同じではないが、第二引用例記載の発明において、窓11と孔12について要求されているのは、それらが等間隔に開けられていることのみであつて(第二引用例第一頁左欄第一五行ないし第一七行)、窓11の数と孔12の数とが異なることは何ら要件とはされておらず、また、要件とする必要もないのであるから、第二引用例には、互いに異なる周波数を有する複数の光を取り出す構成があるということはできない。この点について、被告は、第二引用例の第2図の回転円板1の構成それ自体からみて、回転円板1は、互いに異なる周波数を有する複数の変調光を同時に取り出す作用を営むものであることを読み取ることができる旨主張するが、第二引用例記載の発明において、回転円板1は、互いに異なる周波数を有する複数の変調光を同時に取り出す作用を営む目的で採用されたものではなく、回転円板1には右のような作用は備わつていない。被告は、回転円板のみを取り出し、これを第二引用例記載の発明の要部であるかのように主張するが、第二引用例記載の発明における回転円板は、異なる発光態様を有する二つの光源と組み合わされて減衰回転することにより、初めて所期の作用を営むものであるから、回転円板のみを本願考案の要部であるとする被告の主張には何らの根拠もない。また、何が発明の要部であるかは、第二引用例記載の発明の全体的把握を抜きにしてはいい得ないことであるから、第二引用例記載の発明の要部を引用したとする被告の主張は、完全に自己矛盾に陥つているものであり、また、仮に、被告の主張するところが、第二引用例記載の発明の技術的思想、目的及び作用効果を捨象した、引用例中に図示された回転円板の単なる外的形状そのものが本件審決の引用するものであるとの趣旨であるとすれば、論理上、その場合に考察の対象となし得るのは、目的、機能及び用途が全く開示されておらず、したがつて、そのような形状を有する根拠すら不明な、同心円孔列を有する単なる円板形状物でしかないということにならざるを得ず、このような技術的に無規定で用途不明な形状物を「ガラス製品の欠陥を光学的に探知する装置」に応用することが当業者にとつて極めて容易に考案できる範囲を越えることは、明らかである。更に、被告は、本件審決で引用したのは第二引用例記載の一部であつて、原告が主張するような個所は引用していない旨主張するが、本件審決の引用個所をみると、本件審決は、第二引用例記載の発明の内容である閃光融合測定装置の構成要素である回転円板を引用しているものであり、換言すると、第二引用例記載の発明の技術的思想に位置付けられたものとしての回転円板を引用しているものと解される。更に、被告は、第二引用例記載の発明における二つの光について、変調光である場合も、そうでない場合もある旨主張するが、右の二つの光がそのようなものであるとすれば、そのような光を用いたのでは本願考案は成り立たないのであるから、被告の右主張は、本願考案が第二引用例記載の発明からは容易に考案することのできないことを認める以外の何ものでもない。更にまた、被告は、ネオン管4を連続光源に変えるか、又はネオン管4を省略して光源用豆電球6の発する光を分けて利用すれば、互いに異なる周波数を有する複数の変調光を同時に取り出す構成が得られることは、光学上自明の理である旨主張するが、そのような変更を第二引用例記載の発明に加えた場合、それにより得られた装置が、フリッカー値測定装置として全くその用をなさなくなることは、あえて説明を要しないところであつて、このような変更をしたものをもつて考案の容易性をいうがごときは、実用新案法の意義を全く否定するものというほかはない。

第二引用例記載の発明については、右のとおりであるから、第二引用例記載の発明における回転円板を第一引用例記載の発明に適用することは、第二引用例記載の技術的思想から完全に離れることなしにはなし得ないことである。次に、第一引用例記載の発明の側からみて、その装置に第二引用例記載の発明の回転円板を用いることは、光電変換された二つの断続光による測定感度の自動補償調整という、第一引用例記載の発明の目的及び作用効果からは推考すべくもない。結局、第一引用例及び第二引用例記載の発明から本願考案に想到し得るというためには、両発明の目的及び作用効果からは推及し得ないような方法で両発明の構成をそれぞれ変更しなければならないのであるから、本願考案が当業者にとつて極めて容易に考案し得るものであるとは到底いい得ない。

被告は、本願考案の構成が単に第一引用例記載の発明の要部に第二引用例記載の発明の要部を適用したものにすぎない以上、本願考案の作用効果は顕著なものではなく、予測性のあるものである旨主張するが、被告の右主張の理由がないことは、前述したところから明らかである。

第三  被告の答弁

被告指定代理人は、請求の原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

一  請求の原因一ないし三の事実は、認める。

二  同四の主張は、争う。本件審決の認定判断は正当であり、参加人が主張するような違法の点はない。すなわち、

第一引用例記載の発明は、参加人主張のとおりのものであるが、第二引用例記載の発明は、参加人の主張するようなものではない。第二引用例記載の発明は、断続光がどの程度の周波数のときに人間の眼がちらつきを感じはじめるかという、いわゆるフリッカー値の測定装置であり、ネオン管4の点滅と、回転円板1の軸を中心として同一円周上に等間隔に開けられた五個の孔12との同調(合致)によつて、検者がネオン管4の静止像を認めたときに、ストップウオッチを押して計時を開始し、光源用豆電球6から、回転円板1の軸を中心として同一円周上に等間隔に開けられた八個の扇形の窓11を通つて映写板10に投影された像のちらつきを、被検者の眼が感じはじめたときに、ストップウオッチを再び押して計時を終了し、その計時時間よりフリッカー値を測定するものであつて、第二引用例には、互いに異なる周波数を有する複数の光を同時に取り出す構成の記載があることは明らかである。次に、二つの光が変調光であるか否かを検討すると、光源用豆電球6から発し八個の扇形の窓11で断続される光(以下「第一光」という。)が変調光であることに疑義はなく、ネオン管4から発し五個の孔12で断続される光(以下「第二光」という。)が変調光であるか否かは問題であるが、ネオン管4の点灯の周期と回転円板1の速度及び孔12の個数との関係いかんによつては、ネオン管4の点灯と五個の孔12とは、同調する場合もあれば、同調しない場合もある。具体的には、ネオン管4の点灯と孔12とが、毎回同調すれば、周波数が変わらないので、五個の孔12で断続される光は変調光とはいえないが、回転円板1が減衰してその速度が例えば二分の一に低下すれば、ネオン管4の点灯二回につき一回しか孔12と同調しないため、周波数が変わるから、変調光ということができる。仮に、変調光ということができないとしても、第二引用例記載の発明のような光学装置においては、一枚の回転円板1に互いに個数が異なる八個の扇形の窓11と五個の孔12とが開けられている以上、ネオン管4を連続光源に代えるか、又はネオン管4を省略して光源用豆電球6の発する光の半分を反射鏡若しくはガラス・ファイバー束等の手段を用いて利用すれば、互いに異なる周波数を有する複数の変調光を同時に取り出す構成が得られることは、光学上自明の理である。参加人は、本件審決が引用していない個所を含めた第二引用例の記載全体に論及して、本願考案と第二引用例記載の発明との相違を主張するが、本件審決で引用したのは第二引用例の記載の一部であつて、参加人が主張するような個所は引用していないのである。第二引用例には、文言による説明がなくとも、第2図に八個の扇形の窓11と五個の孔12とが客観的に明らかに記載されている以上、回転円板1の構成それ自体からみて、回転円板1は、互いに異なる周波数を有する複数の変調光を同時に取り出す作用を営むものであることを読み取ることができる。このように周波数が変わる現象は、必ず生じており、当業者が認識していることでもある。また、複数の信号の混信を防止するために、これらの信号の周波数を互いに異なるようにすることが、無線通信の分野では常套手段であり、斯界にとどまらず、一般常識化している今日、この常套手段を光学、照明の分野に採用することは、必要に応じて随意に行える程度のことである。したがつて、第二引用例には、互いに異なる周波数を有する複数の変調光を同時に取り出す構成が実質上記載されているものと理解することができる。

してみれば、第二引用例記載の発明を第一引用例記載の発明に適用することができるものというべきであり、また、本願考案の構成は、単に第一引用例記載の発明の要部に第二引用例記載の発明の要部を適用したものにすぎないものということができる。したがつてまた、本願発明の作用効果は、顕著なものではなく、予測性のあるものでもある。

第四  証拠関係<省略>

理由

(争いのない事実)

一本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が参加人主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二本件審決は、以下に説示するとおり、第一引用例及び第二引用例記載の技術内容の認定を誤り、その結果、本願考案と第一引用例及び第二引用例記載の技術内容との構成及び作用効果上の差異についての判断を誤り、ひいて、本願考案をもつて第一引用例及び第二引用例記載の技術内容並びに慣用技術から当業者が極めて容易に考案することができたものとの誤つた結論を導いたものであるから、違法として取消しを免れない。

前記本願考案の要旨及び<証拠>(本願考案の実用新案公報)によれば、本願考案は、ガラス瓶などの不良品を選別するため、ガラス瓶などの上面の凹凸を光学的に探知する装置に関するものであるところ、従来この種装置として、次々と前面に送られてくるガラス瓶の外周を相対的回転運動によつて照射する発光装置と増幅器に接続された光電管を備えた受光装置とを組み合わせ、瓶口に欠陥があれば光の強さが変わるその差異を探知して、ガラス瓶を検査する装置は知られていたが、探知する欠陥の性質上、光電管で受光する光度が非常に弱く、また、変わり易いものであり、それ故周囲の明るさの変化による外部雑音又は内部の光雑音に近い光信号とを確実に区別する必要があるため、従来の装置では、検査装置全体をカバーによりできる限り完全に遮蔽する必要があり、一方、小型のガラス瓶を検査することができるように、発光・受光装置の容積をできるだけ縮小しようとすることに困難があつて、特にガラス・ファイバーで光を伝える発光器が用いられたが、ガラス・ファイバーを出るところで光束が拡散するため、光の効率が非常に悪いという不便及び受光器が不時の光雑音に妨害され易いというような欠点があり、また、多数の検査を一つの装置でまとめて行うことも試みられたが、相互間の光の雑音効果を全面的に取り除くことができず、この装置はある一定の型の製品を調べる以外に使用し得ないという不便があつたところ、本願考案は、これらの欠点の解消を技術的課題として、適当な周波数の変調波発光光源を、発光周波数に同調する狭い通過帯域の増幅器に接続された蒸着層管などのような高感度で慣性の小さい光電管を備えた受光器と組み合わせると、この装置が光の雑音に対して不感性となり、増幅作用を増大させ、ガラス・ファイバーによる光の不利な点を除き、幅の狭い受光器と組み合わせて小容積・大移動性という利点を効果的に利用することができ、更に、ファイバーによる光束を送る光学系統が簡単化され、また、同一光源に多数の発光器をまとめることができて、装置の小型化と使用の柔軟性が著しく増大され、更にまた、同一検査装置に各種の周波数の多数の発光・受光装置を組み合わせることによつて、しなやかなガラス・ファイバーによる光が供給される可動受光器を使用しても、各装置が互いに光の雑音信号を発生することなく、この検査装置で行われる作業を多重化することができ、したがつて、調整の複雑さのためにこの装置の使用が妨げられることがないという知見に基づき、本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲に同じ。なお、実用新案登録請求の範囲中「発光器」を一つのケース内に収容するとの記載は、明細書中の考案の詳細な説明の項の記載及び図面に徴し、誤記と認める。)のとおりの構成を採用したものであつて、その特徴は、参加人の主張のとおり、同一検査装置において、互いに異なる周波数を有する変調光を同時に発する複数の発光器と各周波数の一つ一つに同調させた増幅器をそれぞれ備えた複数の可動受光器との組合せにあり、これにより、光の雑音をなくすことその他の所期の目的を達し、被検査物の多重検査を簡易かつ正確にすることができるという顕著な作用効果を奏するものと認められる。

他方、<証拠>(第一引用例)によれば、第一引用例は、本願考案の実用新案登録出願の原出願である特許出願の優先権の基礎となるフランス国でした特許出願前である昭和三四年一二月一七日に出願公告された特許公報であるところ、第一引用例記載の発明は、一般瓶詰製品中に不当に存在する異物を肉眼によらず自動的に検出し、その瓶を取り除くに便ならしめた検瓶装置の改良に関するものであつて、光源と、光学装置と、変調器と、発光器とを設け、右の変調器は、同軸に配置した孔の円形線を備えた円板からなり、かつ、増幅器をそれぞれ備えた複数の受光器が設けられている検瓶装置であるものと認められるが、参加人が主張するとおり、第一引用例記載の発明は、多重的検査のための構成を有するとしても、同一周波数の光を用いるものであつて、本願考案のような、異なる周波数の変調光を同時に使用するという技術的思想のものではなく、本願考案の作用効果を予測せしめるものでもないことは、被告の自認するところである。また、<証拠>(第二引用例)によれば、第二引用例は、前記優先権の基礎となるフランス国でした特許出願前である昭和二五年五月二五日に出願公告された特許公報であるところ、第二引用例記載の発明は、閃光融合頻度測定装置に関するものであつて、一定光源からの光を回転するこまの円板に開けた一群のスリットを通して被検者に観察させて、眼に光のちらつきを起こさせ、また、同時に定周波交流で点火したネオン管からの光を他の群のスリットにより断続して、検者はこまの瞬時の回転数を見出して光のちらつきの頻度を測定するものであるところ、その具体的な構成として、同心円上に等間隔で開けた扇形の窓11と孔12とを有する回転円板1を垂直軸回りに回転し得るように設け、一定光度の光源用豆電球6から発した光束を、減衰度を一定にした回転円板1の窓11を通じ断続させた光として被検者に観察させ、高速度断続による錯覚連続光が回転円板1の速度の減衰につれて被検者にちらつきと感じた瞬間の回転円板1の回転速度を、検者が孔12によつて定周波交流により点火されたネオン管4の静止像を認めたとき、すなわち、ネオン管4の点滅と孔12の点滅の頻度とが同調したときから計時する構成を採用し、これにより、光源用豆電球6から回転円板1の窓11を通じての断続光がどの程度の周波数のときに人間の眼がちらつきを感じ始めるかという、いわゆるフリッカー値を測定するものであることが認められ(別紙図面(三)参照)、右認定の事実によると、第二引用例記載の発明は、フリッカー値の測定を技術的課題とするものであつて、第一光及び第二光も、右の技術的課題を達成すべく関連付けられ、その二つの周波数も、厳密に決められており、第二引用例には、第一光及び第二光相互の影響をなくし、それぞれの独立性を確保して光の雑音をなくすために、互いに異なる周波数を有する変調光を発する複数の発光器を備えるという、本願考案の課題とする技術的思想は何ら開示も示唆されるところもないことが認められる。したがつて、第二引用例記載の発明を第一引用例記載の発明に転用して本願考案の構成に想到することが、当業者にとつて極めて容易であるとは到底認めることができない。もつとも、<証拠>(第二引用例)によれば、第二引用例記載の発明においても、被告の主張するように、例えば、回転円板1の速度が二分の一に低下すれば、ネオン管4の点灯二回につき一回しか孔12と同調せず、周波数が変わるから、第二光も変調光ということがてき、この場合には、第一光及び第二光は、互いに異なる周波数を有し同時に取り出される複数の変調光であるということができるが、このような複数の変調光が取り出されるのは、前示第二引用例記載の発明の課題を達成するための過程において、極く限られた瞬間に生じるものにすぎず、これをもつて本願考案の前示課題を示唆する技術的思想の開示があるとは認められないから、第二引用例記載の発明の構成がもたらす一瞬の作用をとらえて、これを第一引用例記載の発明に転用して本願考案の構成を得ることが当業者にとつて極めて容易であるということはできない。被告は、この点に関して、仮に、第二引用例記載のものが本願考案における変調光といえないとしても、第二引用例記載の発明の光学装置において、ネオン管4を連続光源に代えるか、又はネオン管4を省略して光源用豆電球6の発する光の半分を反射鏡若しくはガラス・ファイバー束等の手段を用いて利用すれば、本願考案における変調光を取り出す構成が得られることは、光学上自明の理である旨主張するが、このような変更をすれば、その装置は、フリッカー値を測定するという本来の機能を失つてしまうのであるから、このような変更をなし得ることが第二引用例の記載上自明であるとは到底考えられないことであり、したがつて、被告の右主張は、採用することができない。この点について、更に、被告は、第二引用例には、文言の説明がなくとも、第2図に示された回転円板1の構成それ自体から、回転円板1は、互いに異なる周波数を有する複数の変調光を同時に取り出す作用を営むものであることを読み取ることができる旨主張するが、図面は発明の内容を理解し易くするために明細書を補助するものとして使用されるものであるところ、第二引用例記載の発明における右の第2図についても同様であつて、右の第2図のみからは第二引用例記載の発明の技術内容を的確に把握することができず、第二引用例の文言による説明部分を併せみると、第2図に図示するところは、前認定のようなフリッカー値測定の技術を開示するにすぎないものと認められ、前示本願考案の特徴たる構成を示唆するものではないから、被告の右主張も、採用の限りでない。更にまた、被告は、複数の信号の混信を防止するために、これらの信号の周波数を互いに異なるようにすることは、無線通信の分野では常套手段であつて、これを光学、照明の分野に採用することは、必要に応じて随意に行えることであるから、第二引用例には、互いに異なる周波数を有する複数の変調光を同時に取り出す構成が実質上記載されているものと理解し得る旨主張するが、第二引用例記載の第一光及び第二光は、前示のとおり、相互に密接な関連を有し、その周波数もフリッカー値の測定という技術的課題のもとに厳密に決められているものであつて、そこには二つの光の混信を防止するために周波数を変えるという技術的思想は全く存しないのであるから、第二引用例には、前示本願考案の特徴たる構成が実質上記載されているものと理解することはできず、したがつて、被告の右主張も、採用するに由ない。

そして、叙上認定説示するところに徴すれば、本願考案の奏する前認定の顕著な作用効果は、第一引用例及び第二引用例の記載からは到底予測し難いものといわざるを得ない。被告は、本願考案の構成は単に第一引用例記載の発明の要部に第二引用例記載の発明の要部を適用したものにすぎないから、本願考案の作用効果は、顕著なものではなく、予測性のあるものである旨主張するが、前説示に徴すれば、被告の右主張は、その前提を欠くものというべきであり、失当というほかない。

右のとおりであつてみれば、第一引用例及び第二引用例並びに本件審決摘示の慣用技術から本願考案の構成を採用することが、当業者にとつて極めて容易であるとした本件審決は、結局、その認定判断を誤つたものというべきである。

(結語)

三よつて、本件審決を違法としてその取消しを求める参加人の本訴請求は、理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法第八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官武居二郎 裁判官杉山伸顕 裁判官清永利亮)

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